小説で描かれた「著作者人格権の放棄」


息抜きに読んでいた短編集に、病気のため余命わずかとなった売れっ子小説家Aが、旧知の小説家Bに自分の作品を譲るため、著作者人格権を放棄するというお話が出てきました。
AはBに対して何も悪いことをしていないのですが、とあることがきっかけで、自分のせいでBが小説を書けなくなったという気持ちがずっとついて回っていました。そのため、終活として、一番売れそうな未発表作品の著作者人格権を放棄する旨の覚書を用意しておいたというのです。

著作権法における「著作者人格権」の位置づけ

著作権法では、財産権である著作権と、著作者人格権を区別して規定しています。
著作者人格権は一身専属権で、相続や贈与の対象にはならないものとされています(著作権法第59条)。

著作者人格権には、以下のような権利があります。

  • 公表権:公表するか否か、いつ公表するか、などを決定する権利(同第18条第1項)
  • 氏名表示権:氏名を表示するか否か、どの氏名を表示するか、などを決定する権利(同第19条第1項)
  • 同一性保持権:題名や内容を改変されない権利(同第20条第1項)

これらを侵害する行為のほか、著作者の名誉や声望を害するような利用をすることも著作者人格権の侵害となります(同第113条第7項)。

先ほども述べた通り、著作者人格権は一身専属権であるため、著作者が亡くなった時点で消滅します。
しかし、著作者が生存していとしたら著作者人格権侵害になりうるような行為は、原則として許されません(同第60条)。

不行使特約:実務における著作者人格権の扱い

冒頭の小説のように、著作者自らが著作者人格権を放棄する、という例は珍しいかもしれません。

実務的には、例えば依頼する企業側とアーティストやクリエイターなどの著作者の間で取り交わされる契約書に、著作者人格権不行使特約が記載され、著作者側の権利の行使を制限することがよく行われています。

著作者の側では、契約書をよく読み、自分の作品の権利をどこまで手放すことになるのかを理解・納得したうえで契約を結ぶことが大切です。


参考

  • 『アーティスト六法 日本一わかりやすいエンタメ法律ガイド』上野雄平著 小学館新書 2025
  • デザイナーのための知財10問10答|第7回 著作者人格権はデザイナーにとって大切か
  • アートノト(東京芸術文化相談サポートセンター)

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